# 二乗マトリクスの一般知識(ELC Editorの要検討の前提) ## 結論 - 二乗マトリクス: N本のピンがどれも駆動側にも受信側にもなる。キーは異なる2ピンの順序付きの組 (駆動, 受信) に1つ。 上限 N(N−1) キー。対角 (i, i) は使えない。考案は ikeji 氏(2019)。英語では Square / Round-robin / Charlieplex matrix。 - 実用されているのは改良二乗マトリクス(各ピンに追加ダイオード1つ)。素の二乗マトリクスは主要MCUでゴーストが出る。 - 通常・倍マトリクスは、二乗マトリクスの部分集合とみなせる(使うピンの組を row→col に限ったもの、その両向き)。 - 追加ダイオードはELCで持たない。マトリクス方式に依存し、位置が決定的なのでGeneratorで扱える(ユーザー判断)。 - QMKとZMKで row/col の向きが逆になる問題はGeneratorで扱う(ユーザー判断)。 - GND直結で対角を使う変形(N² キー)は標準対応しない。Directとの組み合わせで表せるかは、仕様が固まってから確認する(ユーザー判断)。 ## 方式の比較(ikeji 2022) | 方式 | 正常経路のダイオード数 | ゴースト経路のダイオード数 | 成立条件 | | --- | --- | --- | --- | | 倍 | 1 | 3 | Vf < Vth < 3Vf | | 二乗 | 1 | 2 | Vf < Vth < 2Vf | | 改良二乗 | 2 | 4 | 2Vf < Vth < 4Vf | 同じピン数Nでのキー数: 通常 N²/4、倍 N²/2、二乗 N(N−1)(N=18 で 81 / 162 / 306)。 ## ファームウェア ### QMK - 標準の二乗マトリクス対応はない。ただし標準機能の組み合わせで実現できる: - `matrix_pins.rows` と `cols` に同じピンを同じ順で並べる。 - `config.h` に `#define MATRIX_MASKED` を置き、`.c` の `matrix_mask` で対角のビットを0にする。 - 対角のマスクは改良版かどうかに関係なく必須。Lowに駆動したrowピンを同じピンのcolとして読むので、常に押された扱いになる (gachiham: マスクしないとPCに認識されなくなった。STM32/RP2040)。 - `matrix_mask` は使わない位置も0にできる。対角はその一例。 - 実例 ewderna/cr0wn/cr0wn60(`Dev/KBDs/qmk_firmware/keyboards/ewderna/cr0wn/cr0wn60`): RP2040、9ピン(GP8 GP9 GP10 GP11 GP19 GP21 GP20 GP12 GP18)を rows/cols の両方に列挙、`diode_direction: COL2ROW`。 `matrix_mask` は row0〜6 で対角と未使用の位置を0にし、row7 は一部だけ1、row8 は全部0。 - 対応関係: row = Lowに駆動するピン、col = 読むピン。電流は col → row に流れる。 ### ZMK `zmk,kscan-gpio-charlieplex` - 専用ドライバ。`gpios` にピンを並べるだけで、row/colの区別はない。 - `interrupt-gpios` なしで n本 → n(n−1)キー(ポーリング)。ありで (n−1)(n−2)キー(割り込み、省電力)。 - 割り込みピンは `gpios` に含めない別のピン(ソース上、セルは `gpios` だけから作る)。 - 待機中は全セルを出力1にし、割り込みピンのレベルを待つ。割り込みピンの配線はドキュメントに書かれていない。 - 低電力改良二乗マトリクス(Cheena: 1ピンを復帰用にして (N−1)(N−2))と同じ構成と思われるが、回路は追えていない。 - キーの位置は matrix transform の `RC(row, col)` で書き、row = 駆動ピン、col = 受信ピン。対角は transform から除くよう明記されている。 - ドキュメントは `GPIO_ACTIVE_HIGH` を指定するよう求めている。この場合は入力プルダウン・High駆動で、電流は row → col に流れる。 - QMK COL2ROW と逆向き。同じ基板では row/col が転置される。 - ソース上は `GPIO_ACTIVE_LOW` ならプルアップ・Low駆動になり、QMKと同じ向きにできる。割り込みと併用できるかは未確認。 - 待ち時間の設定: `CONFIG_ZMK_KSCAN_CHARLIEPLEX_WAIT_BEFORE_INPUTS` / `_WAIT_BETWEEN_OUTPUTS`。 ## 改良二乗マトリクスの追加ダイオードの位置 記事の図は読めなかった。以下は経路の段数から組み立てたもので、ユーザーの認識(各ピンに追加ダイオード)と合う。 - ピン i を、GPIOにつながる線 G_i と、ダイオード D_i(アノードが G_i 側)を挟んだ線 S_i に分ける。 - キー (駆動 a, 受信 b) は、S_b → G_a の向きのダイオードを付ける(QMK COL2ROW の場合)。 - 正常経路: G_b →D_b→ S_b →キー→ G_a で2段。 - ゴースト経路: G_c →D_c→ S_c →キー→ G_b →D_b→ S_b →キー→ G_a で4段。中継するピンでも D_b を通らされる。 - 回路図を格子に描くと D_i は対角 (i, i) の位置に来る。gachiham の「[0,0] はダイオードを入れているだけなのでスイッチとして使えない」と合う。 ## 実測値(ikeji 2022) | MCU | Vth | Vf | 2Vf | 3Vf | 4Vf | | --- | --- | --- | --- | --- | --- | | ATmega32u4 | 1.45〜1.56V | 0.513V | 1.034V | 1.495V | 1.963V | | RP2040 | 1.26〜1.36V | 0.474V | 0.949V | 1.418V | 1.862V | - 素の二乗マトリクスは両MCUとも Vth > 2Vf で、ゴーストがLowと読まれる。改良版は両MCUとも成立する。 - ATmega32u4 では倍マトリクスの条件(Vth < 3Vf)が際どい。著者は測定条件(5V弱の電源、非選択線の電流)を疑っている。 - MCUとダイオードの相性は Vf と Vth の比で決まる。 ## 出典 - ikeji 2019: ikeji「キーボードのマトリクス方式の分類」ikejiのblog、2019-12-14 - 参照先: - 二乗マトリクスの初出。ゴーストはダイオード2つ分なので部品の組み合わせに注意、1キー2ダイオードが要るかも、と書いている。 - ikeji 2022: ikeji「変則マトリクスキーボード設計」ikejiのblog、2022-12-07 - 参照先: - gachiham: gachiham「QMK 0.19.2で改良二乗マトリクスのキーボードファームウェアを作っていく話」gachiham's blog、2022-12-17 - 参照先: - 9ピン72キーから63キー。rows/colsに同じピンを並べ、MATRIX_MASKEDを使う。 - Cheena: Cheena「自作キーボード初心者のためのでかいキーボード設計法」note、2025-05-26(2025-09 追記あり) - 参照先: - 低電力改良二乗マトリクス。 - ZMK kscan: 「Keyboard Scan Configuration」ZMK Firmware ドキュメント - 参照先: - ZMK ドライバ: zmkfirmware/zmk のソース `app/module/drivers/kscan/kscan_gpio_charlieplex.c`(main ブランチ) - 参照先: ## 捨てた記述 - 二乗マトリクスを e3w2q 氏の発案とした記憶は誤り。初出は ikeji 2019。